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第21回食品加工雑学講座

皆さんこんにちは!

合同会社Alba、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~変遷~

 

食品加工は、腐りやすい食材をおいしく・安全に・運べる形へ変えるために生まれました。保存・加熱・発酵といった古典技術から始まり、近代化、オートメーション、データ化、サステナまで、産業は大きく姿を変えています。本稿では、現場で役立つ視点で技術・品質・市場の変遷を整理し、これからの一手まで示します。


1|保存の知恵の時代(〜19世紀)

  • 塩蔵・乾燥・燻製・発酵が中心。冷蔵のない環境での微生物制御と風味づくりが主題。

  • 和洋問わず、麹・味噌・醤油・清酒、チーズ・サラミなど地域微生物生態系が価値そのものだった。


2|産業化の夜明け(19世紀後半〜戦前)

  • 缶詰(アペール法)と殺菌の普及で常温長期保存が可能に。

  • ローラー粉砕・遠心分離・連続圧搾など機械化が進み、製粉・製糖・油脂・乳製品がスケール化。

  • 冷蔵・冷凍のインフラが整備され、コールドチェーンの原型ができる。


3|大量生産と規格化(戦後〜1980s)

  • 都市化と流通拡大に合わせ、連続式ライン・標準レシピ・規格管理が定着。

  • インスタント食品・レトルト・フリーズドライが登場し、利便性が価値の中心に。

  • 添加物・甘味料・油脂のイノベーションで安定・安価・均一を実現、一方で健康・栄養の議論が始まる。


4|安全の科学と国際化(1990s〜2000s)

  • HACCPISO 22000が広がり、**“結果検査”から“工程予防”**へ。

  • 原料の国際調達でトレーサビリティが不可欠に。金属探知機・X線・カメラ検査が標準装備。

  • **MAP(ガス置換包装)・無菌充填(アセプティック)・高圧処理(HPP)**など非熱・準非熱の技術が実装。


5|リーンとオートメーション(2000s〜2010s)

  • TPS/リーンの導入で在庫・ロス・段取り替えを最適化。SMED、5S、OEEが日常語に。

  • サーボ充填、協働ロボット、AGV/AMRで人手の平準化。人が価値判断へシフト。

  • アレルゲン管理交差汚染防止のゾーニングが高度化。


6|データが主役に(2010s〜現在)

  • センサーとMES(製造実行システム)で温度・湿度・pH・水分活性・ライン速度をリアルタイム監視。

  • SPC(統計的工程管理)で“勘”をデータ化し、異常の早期検知予知保全を実現。

  • 需要予測や配車に機械学習、外観検査に画像AIが入り、品質のばらつきを圧縮。


7|市場価値のシフト:量→健康・体験・倫理

  • 健康志向:減塩・低糖・高たんぱく・食物繊維・機能性表示。クリーンラベル(添加物最適化・短い原材料表記)が評価軸に。

  • 多様化:ヴィーガン・ベジ・ハラール・グルテンフリー等への配慮設計

  • 体験価値:食感・香りの設計、プレミアム即食冷凍のリベイク体験が拡大。

  • 倫理と環境:フードロス削減、リサイクル可能包材、CO₂見える化が意志決定に影響。


8|包装・物流の進化

  • レトルト・アセプティック・HPP・スキンパック・MAPなど、品質保持と体験を両立する選択肢が増加。

  • 電商・宅配の伸長で個食・小分け・耐破損設計と最後の100mの温度管理が重要に。

  • リターナブル・モジュール通い箱温度ロガーで、冷蔵・冷凍の“見える化”が進む。


9|人と組織の変化

  • かつての“職人の勘”をSOPとデータに落とし、多能工・スキルマトリクスでシフト。

  • 安全・衛生・人権(労務)を含むESGが調達の条件に。

  • 地域原料×加工技術で地産地消の高付加価値が生まれる一方、グローバル連鎖のリスク分散も課題。


10|いま向き合うテーマ(次の5年)

  1. 極端気象と原料不安定:多産地調達、代替原料(植物たんぱく、発酵原料、培養)。

  2. サステナ:エネルギー原単位、廃水・廃熱回収、副産物アップサイクル

  3. 個別化:パーソナライズ栄養、少量多品種に耐える段取りレス化

  4. フードロス:需要予測×賞味期限設計、二次品質販売の仕組み。

  5. 完全デジタル履歴:原料〜機械設定〜検査〜配送まで一気通貫トレース


11|短いケーススタディ

A|レトルトの“できたて食感”回復
課題:柔らか過ぎる食感。
対策:HPP+短時間加熱へ工程再設計、ソースの水分活性調整
結果:常温流通を維持しつつ食感改善、返品率低下。

B|冷凍惣菜の解凍ムラ
課題:家庭レンジでのばらつき。
対策:成形の厚み一定化氷結晶コントロール、外装にリベイク手順を追記。
結果:レビュー評価向上、クレーム半減。

C|アレルゲン交差汚染
課題:ライン共用で微量混入。
対策:色分け道具・洗浄検証・ライン順序の標準化、迅速検査導入。
結果:表示違反ゼロ、監査スムーズ化。


12|現場で使えるチェックリスト(抜粋)

品質・安全

  • HACCPのCCP/PRPは最新の危害要因に合致しているか

  • アレルゲン・異物・微生物のモニタリング頻度と限界値

  • 水分活性・pH・塩分など“設計指標”のライン可視化

生産性

  • OEE(稼働率×性能×良品率)のボトルネック特定

  • 段取り時間のSMED化、清掃CIPの時間・水・薬剤最適化

  • 歩留まり・ロスのプARETO分析

サステナ

  • CO₂/エネルギー原単位、廃棄物・廃水の回収率

  • 包材のモノマテリアル化、過剰包装の削減

  • 余剰品の二次流通・寄贈スキーム

データ

  • センサー値のSPC運用(管理図・異常検知)

  • 原料〜配送のトレース台帳と監査対応性

  • 画像検査AIの過検出/見逃しチューニング


13|90日アクション(明日から動ける三手)

  1. “製品カルテ”の標準化
     ターゲットaw・pH・熱履歴・許容範囲を一枚化し、現場モニターに表示。逸脱時の止めるルールを明文化。

  2. トップ3ロスの対策PJ
     廃棄・過充填・段取りロスの上位3つにクロス機能チームで着手。週次でOEE改善をレビュー。

  3. 包材の棚卸しと実験
     主力SKUでモノマテリアル化 or 充填軽量化のABテスト。品質・歩留まり・コスト・CO₂を同じ指標で比較。


まとめ:

食品加工製造業は、保存の技術から始まり、大量生産の規格化を経て、いまやデータとサステナで設計する産業へ。
求められるのは、

  • 科学的根拠に基づく安全と品質

  • 少量多品種・個別化に応える機動力

  • 環境・社会に対する説明責任

次の一歩は小さくて良い――指標を一枚に見える化し、ロスの上位3つから削る。
その積み重ねが、現場の競争力と、食卓の信頼を着実に底上げします。

 

 

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